自費出版日記

人間国宝の裏芸

2015.03.20

桂米朝師の裏芸を目の前で見せていただいたことがある。
1987年に茂山千之丞師の『狂言役者 ひねくれ半代記』が岩波新書になったが、きっかけは週刊「京都民報」の連載読み物だった。長期連載をお願いしたとき、多忙な千之丞師にとても執筆の余裕はなく、「聞き書き」ならと引き受けていただいた原稿の素案づくりを当時文化担当記者だった私が担当していた。それゆえ茂山一門が仕切る出版パーティーに呼んでいただいたうえ、先斗町のとある酒亭での2次会にまで誘っていただく幸せを体験した時のことであった。両師は戦後、危機に直面していた伝統芸能の復興・革新に、垣根を越えてつくされた盟友である。
さて酒席が佳境に入る頃、米朝師は卓上を片付けさせ、両手人差指、中指を手足に見立てて、徳利と杯を小道具に仕草も艶やかな女舞を披露された。祇園などでの師匠の相手は舞妓さんなどではなく、いつも「超ベテラン」の人たちで、彼女たちから遠い昔のお座敷芸を仕入れておられたと聞いたのは、その時のことだったか。心からご冥福を祈ります。(斉藤治)